シオドア・スタージョン『人間以上』『夢見る宝石』

 スタージョンの『人間以上』を読んだのは中学の時。それは物語を通して、人間の種としての進化の可能性と方向性、そしてその中で道徳とエトスの果たす役割について、十代の心にしっかりと刻み込んだ。その意味では自分の人生観に影響を与えた本。

 改めて原書で読み直してみると、舌足らずなところ、説教っぽくて冗長なところもあるが、それでもやはり名作だ。

 昔読んだ時にはもちろん、心理療法についての知識も経験もなかったので気づかなかった。今改めて読んで、半世紀前に書かれたこの本の中で、スタージョンがすでに、心理分析や心理療法的な手法で感情や記憶のブロックを解くことが、人間の能力や可能性をフルに発揮するために重要だと考えていたのに驚かされる。

 もちろん優れたSF作家というのは、いつも来る時代の予言者ではあるのだが。

 「人間の種としての進化は、道徳性を核とすることなしにはあり得ない」というメッセージを、こんなにもストレートに(ほとんど説教調で)語り上げることを許し、しかもそんな作品に多くの賞を与えた当時のSF界もすばらしかったと思う。

 SFの中には、十代の頃には夢中で読んだが、今はもう読めないなと思うものもある。だがスタージョンは今でも好きな作家だ。

 『夢見る宝石』は、『人間以上』と並ぶスタージョンの代表作。

 『人間以上』を読んだのと同じ頃に探したが手に入らず、やがてSF小説そのものを読まなくなり、そのままになっていた。

 思い出して原書を手に入れて読んだが、久々に古典的名作のカテゴリーに入るSFを読んだと感じた。1950年に書かれた作品とはとても思えないが、時代を超えて残る古典とはそういうものだろう。

 十代の頃ではなく、人生経験を一通り積んだ今になって読むことができたのも、ある意味では幸運だった。今だからこそ、この作品をすみずみまで味わうことができたと思うから。

 「人間であるとはどういうことなのか、何が我々を人間たらしめるのか」という永遠不変のテーマを、最初から終わりまで一気に読ませる抜群におもしろいストーリーとして書き上げることのできたスタージョンは、ディーン・クンツの言う通り、何世紀を経ても読み継がれ続ける作家だと思う。

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