「射手[テロン]」という呼び名で知られる教団の四柱の一人、オディナが辞めたという知らせは幹部たちを驚かせ、ガレンの取り巻きは密かに安堵のため息をついた。
年配者の多い幹部の中では例外的に若く、性急な性格のオディナが、自分の思い通りにならぬことに業を煮やして辞めていったのだと彼らは解釈していた。
だが、本当にそれだけか。
それを探るために送った「青年将校[ヤングタークス]」の一人から報告があった。
オディナは教団を辞める前に、軍の仕事も退役していた。そして教団のあるニューヨークから姿を消し、ヴァージニア州の自宅にも戻っていない――。
報告を聞き終わり、携帯電話を置くとソファにもたれる。
オディナの行き先――どこか判明していないが、ルシアス・フレイの所だろう。
二人の行き先を突き止めるべきか?
しばらくし思案し、もうしばらく事態がどう展開するのかを観察するべきだと考える。
オディナは両刃の剣だ。あれほどパワフルに火の要素を体現する人間は稀だが、火と同じようにコントロールはきわめて困難。うかつに扱えば火傷をするだけでなく、火事はまわりに焼け広がる。
フレイはどうだ? 人と関わるのを好まない理性主義の思索家。それが、ガレンを嫌うオディナに引きずり出され、嫌々ながら教団内の主導権争いの矢面に立たされた。
自分の理解が正しければ、この二人が手を組んで動き出したとしても恐れるには足りない。
グラスを手に、窓の外の暗い空を見る。
自分には大きな目的がある。かつては政界や軍部にも深い影響力をもっていた、この「秩序を司る場所[オルド]」を建て直すのだ。
そのために時間はある。今は足場を固めながら、成り行きを見守るべきだろう……。