灰色の霧の中で、大切な人を探している……必死に探しているのに、そして気配は感じるのに、その手をつかむことができない。
細かな水滴が肌にまとわりつき、汗とともに流れる。肌に触れるシャツがじっとり湿る。
ずっと歩き続けているのに……追っても追っても、追いつけない。前に進んでいるのかどうかも、わからない。
もう足を止めて、泣き出したくなる……。
セレスティンは目を開けた。声をあげたいほどの焦りとフラストレーションの感覚が、まだ胸の中に残っている。パジャマは汗で湿っていた。
大きくため息をつく。
夢……。
こんな後味の嫌な夢、もう長い間、見たことがなかった。
早く水のある場所にたどりつきたくて、焦ってるんだ。エステラに連絡をとれないもどかしさと寂しさが、自分の気持ちを湿らせてる……そう思うことにした。
頭ではそう考えたけれど、自分の別の部分で何かが引っかかる。
誰かに話した方がいいのかな。
今日の午後はルシアスに会うけど……でも嫌な夢を見たぐらいでいちいち相談して、心配してもらうのも嫌だ。
もう子供じゃないんだし。21歳になってお酒も飲めるようになったし。なにより自分一人で、もっといろんなことができるようにならなくちゃいけないんだから。
強くなりたい。そしていつかルシアスに追いついて、同じ目線で見つめあうことができるように……。
嫌な夢ぐらい、自分で乗り越える。
ふわりと温かいものが足に触れた。
サラマンダーの気配。
「うん」
起きて、向こう側に出かける準備をする時間だ。
こちら側ではサラマンダーの姿は、火に宿っている時を除けば目には見えない。でもその存在は感じとれる。
熱いシャワーを浴びて目を覚まし、嫌な夢を洗い流す。マリーにもらったお茶を飲んで、気分を落ち着けてから、向こう側に足を踏み入れる準備をする。
昨日は、遠くで森が明るくなっているのが見えた。それが森の縁かもしれない。