三人はルシアスが普段立ち寄る場所をリストした。数はそれほど多くない。
電話で訊ねられるところへはマリーが電話をし、それ以外の場所はテロンとセレスティンが回った。
日が暮れてからマリーの家に戻る。
手がかりがないまま、時計が深夜を過ぎる。
マリーは自分とテロンが起きているから、ベッドで眠るようセレスティンに言ったが、彼女は「ここで待ちたい」とがんばった。
明け方になってもルシアスから連絡はない。
朝になり、テロンが警察の担当者を呼びだして話をし、セレスティンはそれを不安げに聞いている。
マリーは朝食の準備をした。セレスティンの表情がうかない。
「ごめん お腹空いてない」
「食欲がないのはわかるけれど、食べておかなければ必要な時に動けないわ」
そう言われ、セレスティンはテーブルについた。トーストをかじり、ジュースを飲む。味を感じることもできていないのが表情からわかる。
食事をとって少しだけ気が緩んだのだろう、ソファにもたれてうとうとしかける彼女にブランケットをかけ、マリーはテロンに話しかけた。
「これは前に聞いた、ルシアスが働いていた秘密プロジェクトと関係はないかしら」
「……俺もその可能性は考えていた。
やつが自分の意志で失踪するとは考えられない以上、誰かに拘束されていると考えるしかない。
国防情報局[DIA]か裏のプロジェクトが関っているなら、周到に準備して実行している。警察が発見できるような手がかりは何も残していないだろう。
だとすれば、通常の手段でルシアスを見つけることはできん。それこそエステラにでも頼まなければ……」
そこまで言うとテロンは携帯をとり出した。
「彼女にかけるの?」
「ああ 緊急事態でもなければ呼ぶなと言われているが、こいつはそういう事態だ」
しばらくの沈黙。
「出ないな。向こうは昼過ぎのはずだが――」
そう言いながら、テロンの表情は彼が何かを疑い始めたことを表していた。
マリーは少し考えてから言った。
「一人の時間が欲しいから、少し部屋にいるわ。あなたもシャワーを浴びたり休むなら二階の部屋を使って」
マリーは自分の部屋に戻り、冷たいシャワーを浴びた。
乾燥したセージの葉を焚き、スピリットの加護を求める祈りを捧げてから、意識を静めてメディテーションに入る。
エステラのように行方不明の人間を探す力など、自分は持ち合わせていない。
しかしこれだけの時間、親しく過ごしてきて、ルシアスの存在は自分の感覚に染み込んでいる。少なくとも彼の安否は感じとれるはず。
意識と感覚を開いて待つ。
おもむろに広がる濃い灰色の霧……進んでも進んでも際限がない……肌を濡らし、衣類にも染み込む冷たい湿気を感じながら手探りをするうちに、壁のようなものにぶつかった。
霧に包まれた壁……それはとりつきようもなく高く、その手触りは静かで頑なだ。
何者かが自分がルシアスに触れるのを邪魔しているのか。
壁の手触りを感じながらマリーは思った。
それとも……ルシアス自身が探されないことを望んでいるのか?
しかしそんなことをすれば、どれだけセレスティンを苦しませることになるか、わかっているはず。
それでもあえてそうするほどの理由があるということなのか……それとも……。
確かなことは、彼が自分のためだけにそんなことをする人間ではないということ。
マリーは呼吸を深めて思考を手放した。
短く音のつらなる歌のような声でケストレルのスピリットに呼びかける。
すぐに馴染みの小型のハヤブサの軽い羽ばたきを感じる。
人間としての自己の枠を外し、意識を鳥と一つにする。ケストレルは風を切ってオアフの空に飛びあがり、島を端から端まで見回った。
彼の存在がどこにも感じられない。
彼はもうこの島にいないというのか……?