2. 接点

 忙しいダウンタウンの通りを歩いていたルシアスの携帯が鳴る。表示されているのは、ニューヨーク局番の見たことのない番号。
 いつもならば無視するが、何かが感覚にひっかかり、通話に応じた。
「少佐」
 この呼び方は……軍の関係者か。退役した時から携帯の番号は三度変えている。わざわざ探して突き止めたとすれば、普通の用件ではない。
「リチャード・エルドマンです。覚えておられないかもしれませんが、少佐がいらした頃からのオルドのメンバーです。何度か指導していただいたこともあります」
 名前を思い出す。中背で、目立たない存在感の実直そうな男だったと思う。
「この番号は、わざわざ探し出したんだな?」
「申し訳ありません。メールアドレスよりは、社会保障番号に紐付いている携帯の番号を調べる方が容易でしたので」
「ああ 君はそちらの分野の出身だったな。何の用か聞こうか」
「スローン大佐から、少佐の居場所を探すように依頼されました。少佐の社会保障番号も彼から伝えられたんです。保管されていた個人ファイルから抜いたのだと思います」
「目的は何だ?」 
「何も聞かされていません。ただ内密に居場所を探してくれと」
 スローンが自分を探す理由はただ一つしかない。プロジェクトに引き戻そうというのだろう。
「スローン大佐から接触があった時、『自分もすでに民間人だから』と断ったんですが……国のために重要な件だと粘るので引き受けたところ、できるだけ急いで少佐を探せと言うことでした。
 依頼されたことを他の人間に言うなと言われましたが、本人と話すなとは言われませんでしたので、とにかく少佐には一言と」
「そうか 礼を言う」
「……それとは別の話なんですが……少佐は、オルドに戻ってこられるつもりはありませんか?」
「それはない。ニューヨークに戻るつもりもないな」
「そうですか……残念です。少佐が指導者の任につけば、オルドも変われるのではないかと思っていましたので」
「……君がそんなふうに考えていたとは意外だな……スローンにはもう伝えたのか?」
「まだです。手間どっているふりをして少し待たせようと思いますが、社会保障番号まで渡されて、見つからなかったとは説明できないので……自分がやらなければ、他の人間を使うだけだと思いますし」
「わかった」
「どうかお気をつけて」
 それだけ言うと、エルドマンは電話を切った。