夕食の後、ルシアスはマリーとセレスティンをホテルに送り届けてからエステラの所に向った。
彼女のメインの住居はロングアイランドの東端にあるが、マンハッタンにもマンション[アパート]を持っている。仕事のある週の半分はだいたいそこにいる。
中に招き入れられる。部屋がまだ暖まっていないのは、エステラとテロンも少し前に着いたばかりらしい。
テロンは勝手知った様子でワインを開けていた。
「まだ飲むのか」
「メシと一緒に飲んだ分はもう燃えちまった。途中立ち寄った店で俺が選んだ上等の赤だぞ」
そう言いながらルシアスの分も注いでグラスを渡す。
ソファに腰を下ろし、テロンは思い出したように訊いた。
「セレスティンをつれてったのは、単なる見学じゃなかっただろう?」
「見学でなければ、なんだったと思う?」
それはルシアスも考えていたことだった。
「……これとははっきり指させない形で、彼女は人間やそれ以外のものに影響を与える。我々四人のバランスに対してもそれがあったと思う」
エステラが泡立つ液体の入ったフルートグラスを明りに透かしながら言う。
「風に似て風にあらず。火とも馴染み、大地にも寄りそう。水に入れば水に溶け、その力を増す。
ほんとは四人の真ん中に立たせてもよかったんだけど」
ルシアスははっとした。それは確かに意味をなす。
「しかし そんなことが……」
「前例は知らないけど、あってもいいんじゃない?」
「驚きはせんな」
テロンがグラスを干す。
「それはそうと、明日のことだ」
教団の改革に必要な新しい方針についてはあらかじめ話し合ってあったが、それを確認する。
「オルドの本来の機能をとり戻すためには、これ以外にない。問題はそれを受け入れない人間が一定数いるだろうということだな」
「力に固執する一部の幹部やメンバーは、オルドを去って黒魔術の組織に流れていくかもしれない。でもそれは止められない」
白魔術に携わる者の不文律。
「――光と闇の戦いは、個人の内で戦われなければならない、か……」
次の日の朝、セレスティンとマリーは三人について再びオルドを訪れた。午前中にまず小さなミーティングがあり、そして午後に大きな会議があると教えられていた。
ミーティングルームには三十人ほどが集められていた。ガブリエルや書記、エルドマンという人もいた。マリーとお茶を飲んでいた透視者の女性たちの顔も見えた。
セレスティンとマリーはみんなから少し離れ、ミーティングルームの後ろに座る。
前にはエステラとテロン、ルシアスがいて、みんなと向かい合っている。部屋を占める雰囲気は引き締まって少し緊張した感じだったけれど、みんなが三人を見る態度には明らかな敬意と信頼が込められていた。これはきっと三人が信頼する人たちなのだろう。
エステラが、今日の午後の会議でおもだったメンバーたちに伝える内容を説明する。
部屋の雰囲気が少しずつ驚きに変わっていく。
オルドという組織についてまだ十分に把握していないセレスティンにも、それが重大な変化をもたらすものだということはわかった。
ガブリエルが何かを言いたそうにしていたが、エステラは彼に発言の機会を与えなかった。
「しばらくの間は私も残って、必要な処理や引き継ぎを行う。
その後も必要があれば、私たち三人はあなたたちを手助けする。
でも枠組みが立て直された後、オルドを変えていくのはあなたたちの仕事」
話が終わって解散が言い渡され、みなが部屋の外に出ていったところで、書記がゆっくりと歩いて三人のところに行った。
「あなたは真っ先に異論を唱えるんじゃないかと思っていたけど」
「いや それにはもう遅いと承知しております。
昨日ここにいた若いやつらは見ていましたよ――オルドのエグレゴールの姿を。あれは先触れでしょう」
エステラが微笑む。
「おまけに昨夜、先代が私の枕元に立たれたんです。託宣者のことにも触れられて、それでまあ、覚悟はしておりました」
テロンが笑いながら、ねぎらうように書記の肩を叩いた。