26. 会話

 マリーの家で夕食を食べながら、テロンに訊ねる。
「映画なんかでは、何かを呼びだすのに図形を描いたり、呪文を唱えたりするでしょ? 自然霊や元素霊[エレメンタル]たちの助けを借りるのに、ああいうのは必要ないの?」
「誰が何をしようとするかによって、そういうやり方が必要な時や、そうするのが意味をなす場合もある。
 しかしそれは必須じゃないし、唯一のやり方でもない。
 俺はこれ見よがしの大げさな身ぶりは好かん。
 だが例えば集団で行う時には、全員の意図を一つに絞って、力[フォース]を動かす必要がある。そういう場合には、図形や詠唱や手の動き[ジェスチャー]といった型を使う。
 あとは新参者を訓練するのに、まず型にはめて、基本が反射になるまでたたき込む時とかだな。
 だが型や手順自体に力はない。
 型は力[フォース]を流し込むための道具であって、力そのものではないし、力のソースでもない」
 マリーがテロンのグラスにワインを注ぎ、セレスティンの顔を訊ねるように見る。
「2センチちょうだい」
 セレスティンのリクエストにテロンが笑い、マリーが穏やかにたしなめる。
「まだ練習中なんだから、自分の容量を知っているのはいいことよ。
 ……私は西洋魔術の実践者[プラクティショナー]ではないけれど、あなたの口からそういう考えを聞くのは興味深いわ」
「西洋魔術に比べれば、アメリカの先住部族が守り抜いてきた伝統ははるかに有機的だろう。西洋のように、一神教の圧力で切り捨てた自然とのつながりを、手管を使ってとり戻そうとしているのとは違うからな」
「ええ 奪われた部分も大きいけれど、時間をかけて築かれてきた関係は、まだそこに生きている。
 そしてその道の歩み方を受け入れることで、その関係を受け継ぐことができる。すべてではないにしても、足場は与えられる。
 でも、あなたにも拠りどころとなっているつながりがあるでしょう? それがあるから、人工的な儀式の助けを借りる必要は少ない」
「まあな……」
 テロンがワインを口にする。
「セレスティン 自然霊やエレメンタルとつきあうのは、人間や動物とつきあうのと変わらん。
 知り合いになって、相手の目線で世界を理解することに努める。そして信頼関係を築く。
 本物の信頼関係は、人間目線の契約や主従関係なんぞより、ずっといい。
 お前が目指すべきなのはそちらの道だ」